たらいと私
私は独立前に、とある公認会計士・税理士事務所で勤務していました。
そこでは様々な勉強をさせていただき、本当にお世話になりました。
今の私が曲がりなりにも事務所を経営できているのは、その事務所で出会った皆様のおかげです。
その事務所の所長からは様々な含蓄のあるお話をお聞かせいただき、その全てが私の財産になっていますが、特に今でも大事にしているのが「たらいの法則」です。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、このようなお話です。
たらいに張った水を、「自分のものだ」とばかりに自分のほうにかき寄せても、その水はするりと手をかいくぐって、反対側に遠のいてしまう。
反対に、「どうぞどうぞ」と相手に差し出すように押すと、その水はたらいの側面をつたって手元に戻ってくる。
世の中の道理は、そのようなものだ。
この話は経営にもそのまま当てはまる、という文脈でお聞きしたと記憶しています。
後に、二宮尊徳が説いたとされる教えだと知りましたが、当時の私は不勉強ながら初めて知り、確かにその通りだと、とても腹に落ちました。
そして同時に、その法則と自らとの距離の遠さに、軽いめまいがしたのを覚えています。
それ以来ずっと私の頭の片隅にはこの言葉があり、今の自分を測る物差しになっています。
ビジネスは、営利組織・非営利組織を問わず、「顧客の困りごと」を解決する仕組みを提供するものだと私は考えています。
そのために最も重要なのは、その顧客は、本当は何に困っているのか、その困りごとはどの程度の深刻さなのか、どの程度の広がりをもっているのか、そして、既存の商品やサービスではなぜ解決できないのかを深く理解することだと考えています。
そして、これらを深く理解しようとすると、人間が本来抱える欲求や、人間の心理、生物としての人間の在り様など、人間に対する深い洞察力も必要になってきます。
あるいは、そうしたこともベースにした経営理論に対する理解も、実務上はとても有用です。
このような洞察力を得ようと、私なりに様々な学びを続けていますが、続ければ続けるほど奥深さを感じ、底知れぬ世界が広がっていることを感じます。
そんな風に頭の中がこんがらがった時に、この話を思い出すようにしています。
今の私はどうだろうか。関わる皆様に「どうぞどうぞ」と常に差し出せているだろうか。
適時適切なものを差し出すために、周りの皆様の思いを想像できているだろうか。真摯に耳を傾けられているだろうか。
自分を空っぽにして、そんな風にシンプルに考えてはどうか、と、常に原点に立ち返らせてくれます。
弊所は独立以来ずっと、社会課題の解決の取組みを行う事業者様をサポートすることを主眼に日々活動しています。
社会課題の解決には膨大な時間がかかるものであり、特に非営利組織の場合、善意だけでは事業継続が難しい場合もあります。
そういう時こそ、この話を思い出し、差し出すもの、つまりサービスや商品を磨くことに集中することが大切なのかもしれません。
微力ではあるが、非力ではない。
これも先述の所長から教わった言葉ですが、弊所がサポートすることで、事業者の皆様にとって1+1が3にも4にもなるように、小さなことをコツコツと積み上げることを、来年も継続したいと思います。
2025年もありがとうございました。
2026年が皆様にとって良い一年になりますように。
